Tokyo Contemporary Art Award

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梅田哲也

撮影:シャ ヒロヤス
録音:横山拳吾

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TCAAの最終選考の時も、デモンストレーションとして音を出していましたが、パフォーマンスや展覧会を考えていくうえで、基本的に音が一番最初にあるということでしょうか?

自分の場合は手をつけた時には何を作るかが分からないというパターンが多いので、あんまり基準みたいなものを設けているつもりはないんですが、ただ音がすごく重要な判断の基準になっていることは間違いなくあると思います。
よくいうのは、光が当たって物が見えるじゃないですか。それと同じように、もちろん音も反射があって、空間や素材を認識したりするってこともあると思うんですが、光だと影があるように、おそらく、音にも影みたいなものがあるんですよね。反射とか影とか、エフェクトというかリアクションみたいなところを基準に見ていくと、あまり自分が意図しなくても、物の配置とかが勝手に決まってくるような感覚があります。

主な活動のフィールドやこれまでのキャリアについて教えてください。

直接今の活動につながるところでいうと、2000年くらいからクラブやライブハウスで、動くスピーカーや、家電を改造したようなオブジェといったものを使ったライブパフォーマンスのようなことを始めました。
それをやっているうちに知り合ったギタリストの内橋和久さんが関わっていたライブハウスの立ち上げに当初から関わって、音楽の大きなフェスティバルに出演する機会ができて一気に活動の幅が広がったんですよね。
そのうち海外の音楽のフェスティバルからも声がかかるようになり、ついでに周辺の国を何ヶ所かツアーしてまわるようになって。ただ自分の場合ちょっと特殊だったのが、たまたまそれが音楽の現場だったみたいなところがあります。
やってることは今とそんな大きく、というか、全然変わらないんですよね。
毎回与えられた場所、場に対してゼロベースで何をやったら面白いかを考えてやってるということは変わらずに、劇場だったり、展覧会だったり、ジャンルを越境していくということが割と早い段階からありました。
すると、だんだん変なことをやる人と思われ始める。変なことではなく、まっすぐやっているつもりですが、いわゆる期待されているものとは少し違うものをやる人というような捉えられ方もされてきただろうと思います。あとは、どこへ行ってもよそ者扱いというか。美術館で知らない人に紹介される時には、「音の人」や「舞台の人」と紹介され、逆にホールや劇場では、「美術の人」や「アート系の人」と紹介される。常に居場所がなく、肩身が狭いという感じです。それも逆に居心地がよくもあるんですが、そんな感じでやってきました。

最初に作り始めたものが認知されていき、美術館での展示などに活動が広がっていったのでしょうか?

展示についても、やり始めたことと、そんなにずれていないんですよ。
パフォーマンスと展示との違いも、単純に時間の短さや、自分がいるかいないかなど、そういうことでしか分けられなかったりするような部分もあります。展示でいうと、最初の頃は特に音にフォーカスしたようなものが多く、サウンド・アートなどの企画が多かったです。

発表する場所や形式が違うだけで、基本的な考え方は変えずに発表しているのでしょうか?

もともとの意識としてはそうです。たまたま最初に機会があったのが音楽のイベントだったというのがあって、そこでなければ自分はこんなに機会をもらえなかったかもしれません。劇場や展覧会、美術館などでの発表を重ねていくと、必ずしも物質面というか、物理的な空間がどうかということだけではなく、どうしてもその文脈に根付いたことがすごく影響してきます。そこで何をやるかということが、例えば全く同じことをやったとしても、美術館と劇場では受け取られ方が違う。そういうところは経験と一緒にどんどん興味の幅が広がって、やるようになったところだとは思います。

  • 「インターンシップ」公演風景(国立アジア文化殿堂、光州、韓国、2016) ©Rody Shimazaki

  • 「うたの起源」展示風景(福岡市美術館、2019) 撮影:山中慎太郎(Qsyum!)

  • 「wait this is my favorite part 待ってここ好きなとこなんだ」パフォーマンス風景(ワタリウム美術館、東京、2023) 撮影:金川晋吾

  • 「wait this is my favorite part 待ってここ好きなとこなんだ」展示風景(ワタリウム美術館、東京、2023) © Nacása & Partners Inc. FUTA Moriishi

TCAAの最終選考の時に、選考委員との質疑応答の中で特に印象に残っていることはありますか?

自分の活動が、言語化しづらく捉えどころがないということは、今までもよくいわれてきました。あの場の最初の雰囲気もそれとあまり変わらない感じはしました。だから、もう説明してもしょうがないというような気持ちは最初からありました。
ただ逆にいうと、受賞の理由として、「体験にもとづいた活動が、倫理的な態度だ」というようなことと、「作品は重いテーマを扱っているが、その重いテーマの扱い方が、その鑑賞者に対する信頼にもとづいている」ということをいってもらったんですよね。自分はあまり自作を説明してこなかったので、制作の態度とか姿勢を評価されたような気がして、すごく嬉しかったのは覚えてます。

このインタビューの収録時点で(2024年7月)、一度TCAA支援での海外活動をされていますが、今回、新しい発見や出合いはありましたか?また、今後のご予定も教えてください。

元々、4月にヨーロッパで2つ仕事があり、その2つの仕事の間が2週間ぐらい空いていました。いつもであれば帰ってきてしまいますが、今回はTCAAのサポートがあったので、その期間も残って、もともと気になっていたようなところを3、4ヶ所回りました。TCAAの受賞記念展は僕1人ではなく、呉夏枝さんがいらっしゃるので、せっかくだから何か融和点を探りたい。空間的な、建築的なところと、もうひとつテーマ的なところで作品の融和点を探って、今回の展覧会に繋がるようなことができればいいなと考えています。その為のリサーチのつもりでしたので、デンマークとオランダで近代建築を見て回りました。あとは、作品のテーマとして僕もずっと扱ってきた「水」にまつわるところに、呉さんとの共通点があるかと思ったので、アムステルダムや、ヴェネツィア、ロッテルダムの貿易港へ行って、実際に船に乗って録音をしてきました。
そもそも、海外で作品を発表する機会は、分野を問わなければ、結構これまでもあったんですよね。
ただ今までは、今回のようなアウトプットとか締め切りが明確でない、作品制作のためのリサーチをあまりしたことがなくて。そもそもある程度余裕がないとできないことなので、すごく贅沢な時間というか、こういったことは結構大事だなとは思いました。人として、最低限のゆとりとコミュニケーションをひとつの予定の中に設けるということの大切さを学びました。

今後の予定としては海外に行くことは割とあるので、4月の海外活動のように他の予定とくっつける形でまた滞在できればいいなという期待があります。本当にできるかがちょっとわからなくなってきていますが。
今後の渡航先の候補としては、アルゼンチンへ行けたらと思っています。僕、アルゼンチンのブエノスアイレスを割とこれまで作品の中で、度々使ってきたんですよね。ただ行ったことがないというか、自分から遠い場所として、ある種メタファーにしてきたので、実際に訪ねて音楽とか、船もそうですが、ちょっと縁があるようなところを見たいなという気持ちはあります。

2020年に開催した「梅田哲也イン別府」で発表した作品『0滞』の音声も実際に聴きに行きますか?

聴きに行けたら面白いですけどね。別府の作品で、衛星ラジオを作ってポイントに行くと衛星で位置情報を取ってその音声が聞けるというのをやったんですよね。それのポイントが1個、アルゼンチンのかなり沖合いにあって。それが別府のポイントのひとつになっている古井戸を串刺しにした時の出口なんですよね。地球を縦に貫いた時の出口に打ってあるんで、どうやって行くかっていうのは相当難しいと思うんですが、そこへ行って確認してくるっていうのは確かに面白いと思います。

東京都現代美術館での受賞記念展の話を少しおうかがいします。
下見の時に展示室だけではなく、その周辺や、美術館を構成する設備などにも注目されていた印象がありました。
展示やパフォーマンスをするうえで、毎回、周囲の環境など広い範囲で気になる部分があるのでしょうか?

最初は構造や内装、あとそこに付随する、光がどう取り入れられているか、避難経路やレギュレーションのようなところも含めて、建築的なところから見る。あるいは音環境や反響など。実際にそこに来なければわからないんですが、逆にいうと来ればわかることなんですよね。最初そういうところから探っていくというか、見ていくんですが、その周辺、例えば歴史とか、もうちょっと地形的なことは後々掘っていかなきゃ分からない。掘れるところは掘るっていうことを、やはりやりたいんですよね。そうしないとずらせないというか。東京都現代美術館でいうと、外の中庭や水があるピロティ(*1)とかがすごく魅力的だし、あんなに広いのにそんなに注目されてないというか、孤立してる感じも一方であるじゃないですか。そういう場所はすごい好きですし、後は公園が良かったり、もともと水路だったところもたくさんあって結構想像力が膨らみますね。面白い場所だなとは思ってますけどね。きっかけはたくさんあります。

現時点ではまだ1年以上先なので、これから変わっていく部分もあると思いますが、展示のおおまかなイメージなど、今考えてることがあったら最後に教えてください。

ひとつは2人がどこまでやれるかですね。まだ1年以上あるって、確かにおっしゃるとおりなんですが、先ほどの呉さんとの打ち合わせでもかなり具体的なことを話してたと思うんですよね。それがただ聞き慣れたようなアイデアとは少し違うと思うので、自分たちもそうだし、美術館とかが、許容できるラインっていうのも、それこそ融和点を探るっていう作業がメインになってくると思います。どれも無理だったら外に逃げるっていう。それだけはあまり今は考えたくないですが、外があるじゃないかという気はしています。

*1 東京都現代美術館内にある、サンクンガーデンや水と石のプロムナード