サエボーグ「I WAS MADE FOR LOVING YOU」/津田道子「Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる」 Tokyo Contemporary Art Award 2022-2024 受賞記念展
中堅アーティストを対象に、受賞から複数年にわたる継続的支援によって、更なる飛躍を促すことを目的に、東京都とトーキョーアーツアンドスペースが2018年度から実施している現代美術の賞「Tokyo Contemporary Art Award (TCAA)」。
第4回となる「TCAA2022-2024」受賞者のサエボーグと津田道子による受賞記念展を東京都現代美術館で開催します。
第4回受賞者による本展は、それぞれの個展として「I WAS MADE FOR LOVING YOU」と「Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる」というタイトルを冠しました。隣り合うふたつの展覧会は制作に対する関心もアプローチも大きく異なり、それぞれが独立したものでありながら、展示室内での鑑賞者のふるまいが作品の一部となるという共通点を持っています。鑑賞を通じて自身に向き合うことで、動物を含む他者との関係性や、社会的に期待された役割などに目を向けることにもなることでしょう。
■ サエボーグ「I WAS MADE FOR LOVING YOU」
主な表現手段であるラテックスのボディスーツによるパフォーマンスは、回を重ねるごとに内容をさまざまに変容させ、新たなキャラクターを生み出し続けてきました。これまでのパフォーマンスを土台に作り上げる本展では、作品の軸となってきた人間と動物の関係性というテーマの中で、「ケア」の視点に立った作品を発表します。展示室の中では鑑賞者がパフォーマンスの一部となることで、観る側が時として観られる側に回るような、美術館の展覧会の構造を利用した仕掛けを試みます。
■ 津田道子「Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる」
近年強く関心を寄せている「身体性」について追求する中で、自身の幼少期に、ビデオカメラが家に来て最初に撮影されたホームビデオに収められた家族の出来事から着想した新作を中心に、映像装置が組み込まれたインスタレーションを発表します。撮影者の視点がレンズ越しに収められたどこにでもありそうな出来事の再演は、家族という最小単位の社会による、きわめて個人的な記録を起点としながらも、集団の中での人々の立ち位置やシステムへと、その領域を広げていきます。
「身体」をひとつの起点とする両者は、作品制作と身体表現の実践を行き来することで、その独自の表現を発展させてきました。会期中には、展示のほか、パフォーマンスなどのプログラムを通じて、展示空間と鑑賞者の身体を架橋するような体験へと誘います。
展覧会のハンドアウトはこちら
※予定は変更になる場合があります。
津田道子
1980年神奈川県生まれ、石川県在住
映像メディアの特性にもとづき、インスタレーションやパフォーマンスなど多様な形態で制作を行う。映像装置とシンプルな構造物を配置し、虚実入り混じる作品空間が、鑑賞者の視線や動作を操作し、知覚や身体感覚についての考察へと導く。
展覧会へよせて
コロナ禍に身体への関心が大きく変化したのは、私だけではないと思います。例えば家族のような最小単位の社会においても、他者との距離を意識することが身体の振る舞いに関わっていることを経験しました。カメラの位置やフレームと映る人の関係が、身体が持っている距離感を測る道具になると考えてます。この展覧会は、ポスターが剥がれてるのを見つけた時に、そっと貼り直すような、しなくてもいいことだけど、気づいたことに働きかけた延長にあります。
会期中は、さまざまなプログラムを開催予定です。
会期中の下記の時間に、ラテックス製の犬の着ぐるみ「サエドッグ」によるパフォーマンスを開催しています。
※時間は、都合により変更になる場合がございます。最新情報は、会場の掲示または作家のSNSをご確認ください。
※入場無料・要事前予約
申込締切日までに、予約フォームよりお申込みください。
※予約不要
[津田道子によるランイベント「and run ランニングと水と蜂と」] ※終了しました
5月11日(土)にオープン・リサーチを実施し、津田は東京都現代美術館近くの川や人工水路、埋立地など水の存在、またミツバチの存在に着目しながら、まちの歴史、特徴を新たに発見するようなラン・コースを作成しました。
作成したコースを実際に走るイベントを下記の日程で開催します。
※要事前予約・先着順
※当日は飲み物をご持参いただき、動きやすい服装でお越しください。
※「レクリエーション傷害保険・賠償保険」に主催者が加入いたします。
*「and run」とはアーティストの津田道子を代表に、実行委員会形式でアートとランニングの新たな接点を探り、実践する取り組みです。津田は日々の制作や各地でのアート・プロジェクトを行う中で、それらの活動や環境、そして自分自身を客観的に観察するため、スポーツ(ランニング)というアプローチを用い、その方法論の可能性を検証しています。
[アーティスト・トーク]※終了しました
TCAA2022-2024選考委員と出展作家が選考を振り返りながら本展出展作品や今後の展開について話します。
※入場無料・要事前申込・先着順/日英同時通訳あり
作品画像に加え、作品や制作についての作家のテキスト、専門家による寄稿を掲載した作品集を作家ごとにバイリンガルで2024年7月に発行予定です(非売品)。
発行後、ウェブサイトでの公開を予定しています。また、希望者へのモノグラフの郵送も受け付けます。
[郵送配布] ※受付を終了しました
希望者にモノグラフの郵送を行います(送料は自己負担/700円程度)。
8月31日(土)までに、下記予約フォームからお申し込みください。申込受付後に、詳細を返信メールにてお知らせいたします。
2021年6月に公募を行い、選考委員に公募者を含む候補アーティストの推薦を依頼、議論によりノミネート・アーティストを選出。その後、各アーティストの事前調査、スタジオ訪問や面接など、直接対話による選考を経て、2名の受賞者を決定しました。
選考委員(敬称略)
キャロル・インハ・ルー [北京中間美術館 ディレクター]
高橋瑞木 [CHAT (Centre for Heritage, Arts and Textile) エグゼクティブディレクター兼チーフキュレーター]
野村しのぶ [東京オペラシティアートギャラリー シニア・キュレーター]
ソフィア・ヘルナンデス・チョン・クイ [クンストインスティテュート・メリー ディレクター]
鷲田めるろ [十和田市現代美術館 館長]
近藤由紀 [トーキョーアーツアンドスペース プログラムディレクター]
選考会運営事務局
特定非営利活動法人アーツイニシアティヴトウキョウ [AIT/エイト]
展覧会へよせて
今回の展覧会では、昨年の海外滞在リサーチでの経験や近作《House of L》や《Super Farm》を下敷きにした新作を発表します。「弱さ」と「力」がそもそも何なのかという問題にフォーカスを当てようと考えました。ライフサイズの玩具のような空間の中で、肉体と化学製品、動物と人間の境界線を越えた体験をすることにより、普段、皆の心の中にあるものが形になってみえることもあります。そこで「ペット」に象徴されるような、何の有用性もないのに、そして普通の進化論的過程における「競争原理」に従うならば生き残るはずもない中途半端な存在にも関わらず、なんだかんだ人間の感情やファンタジーを投射されることで生きる(ある意味「愛」の力だけで生きているような)モノが作品の新しい主役になりました。微力ながら、その不思議なパワーをどこまでも拡張して引き出すことに挑戦していきたいと思います。