WINNERS
受賞者インタビュー
TCAA 2026-2028
潘 逸舟


撮影:シャ ヒロヤス
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今の表現に至った経緯について教えてください。
私は上海という場所で生まれて、幼少期の頃に青森に移住をしました。父親が絵を描くのが趣味で、私も幼少期の頃から絵を描いていました。どちらかというと、記憶がある時から絵をなんとなく描いていて、ぼんやりと画家になりたい、美術の道に進んでいくというのを決めていました。青森市に国際芸術センター青森というのがあって、その出会いはすごく大きく、高校生の時にそこでパフォーマンスアートというものに出会ったんですね。そこが、初めて表現するということが、絵を描くとか、美しい風景を自分の手で描き出すことだけじゃなく、自分が生きている社会とつながっているということを自分なりに見て思ったり、認識するきっかけになりました。
自分が見ている社会が美術の中で表現されるとしたら、どういう景色なんだろうかということをすごく想像したんです。それで、いろんなパフォーマンスアートの先人たちの作品を見て、見よう見まねで自分の見ているその社会の景色とかを表現の世界でアウトプットしたいという欲望があって、実験的に始めたところがあります。そうしていくうちに、だんだんと身体というものを軸に表現活動を行うようになっていきました。
海でのパフォーマンス、身体を用いた表現のことについて教えてください。
2010年頃から、毎年どこかの海でパフォーマンスをするようになりました。誰もいない海に向かって、自分自身が海に対面しながら何かの振る舞いをしたり、自分が経験している色々なアクションを繰り返したりとかしていました。それはある意味で自分自身の映像日記のようなものでもあるのですが、さまざまな時間と場所で、海に向かって自分自身の生きているということを記録していく。私にとっては、海という場所は、原風景っていうよりかは、社会のメタファーでもあると思っていて。そこに自分自身の姿を映すというか、海には映ることはないんですけど、海に向かってアクションしていくことで、そこに自分自身の姿を映し出していくようなイメージです。日本は色々な海に囲まれた場所でもあるので、いろんな場所でそういうパフォーマンスを行ってきました。
行っているパフォーマンスは、波を箒で掃いたり、自分が生活の中でしていることだったり、あとはアルバイトの警備員をした経験があるので、警備服を着て波を止めてみたり、畑を耕すように波を耕してみたりしました。海というのは形がないもので、自分自身がそういう形がないコントロールできない巨大な存在に対して、そこに存在し続けるために労働をしたり、日常的な自分が普段やっていることをリピートすることによって、その大きな荒波の中に存在し続けることができるということで、同じ行為を繰り返すというパフォーマンスを行いました。
自分がやっている、社会で経験した労働とかというのは、労働の行き着く先とか、その全体的なものっていうのが見えないまま、例えば、そこを掃き続けることや人を誘導することは、全体像の中の一部でしかないのかもしれない。けれども、私たちが生きている社会というのは全体像が見えないまま、何か社会システムの一員として動いていて。そういう全体に対しては盲目的な自分ではあるけれども、そこで動き続けていかないと生きていけない、そういう現状とかも表現しています。
あと、この場所で、自分が家族を持ち、そういう経験をすることで、表現するということが、必ずしも自分一人がしているわけではなく、自分の表現の中にいろんな人々の存在が入り込んでくるというイメージが、近年すごくあります。
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《波を止めている夢》 2017、シングル・チャンネル・ビデオ
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《波を耕す》 2024、シングル・チャンネル・ビデオ
1年目には海外での活動が支援されます。どのような活動を予定していますか。その海外活動に取り組もうと思ったきっかけと合わせて教えてください。
2019年頃に神戸でフィールドワークをしていて、その時に神戸港からブラジルに移住した人々の歴史をリサーチしたんですね。それと神戸にいる海外から来た技能実習生や、神戸アートビレッジセンター(現:新開地アートひろば)で日本語教室を行っている先生たちの話を聞いたりしました。神戸アートビレッジセンターでは「いらっしゃいませようこそ」という個展を2020年に入ってから行いました。今回のブラジルでのリサーチは、その続きという感覚が自分の中でありました。私としては、私自身も幼少期に移住した一人ではあるのですが、日本もかつて海外にたくさんの移住者がいて、そのひとつがブラジルへの移住だったと思います。そういったことを私自身が追いかけて行くようなフィールドワークをしてみたいなと思い、今回、TCAAの応募でそのようなプランを書きました。
1900年に入ってから、年代によってさまざまな人々がブラジルに移住したと思うのですが、どの年代をリサーチするかによっても、その人たちにとってのブラジルや、移住の意味というのが変わってくると思うんです。私はここ(日本)にやってきた人間として、ここから外に自分と同じように移住した人や、私自身がイメージとして追いかけていった先のその場所というのがどういうものなのかとか、あとその追いかけている時の自分自身の身体性みたいなものとかについても考えたいなと思い、計画を立てました。
TCAAの選考で意識したことはありますか
すごい汗をかいていた記憶はあります。私は、東京都現代美術館の会議室でプレゼンをしたので、基本はパソコンをメインに映像を見せ、小作品などを持ってきてお見せしました。これまでいろんなところでアーティスト・トークをしたり、自分のことについて話す機会は多かったので、それはこれまでと変わりなく話をしました。海外の選考委員とかもいたので、なるべく自分というのがどういう人間で、なんで表現を始めたのかというところはちゃんと伝えられるようにすることを意識しました。
私としては、このTCAAというのは、これまでさまざまなパフォーマンスをしたり、作品を作っていく中で、自分が次の展開、次の挑戦をしていくタイミングとしては、とてもいいタイミングだったと思っています。そういう意味では、今回TCAAに選ばれてすごく嬉しかったです。
選考会での様子
現時点(2026年6月)で、展覧会の構想をお聞かせください。
展覧会に関しては、多分規模としては、私はこれまでの中で一番大きい規模だと思っています。今回、やんツーさんと2人展ということですが、東京都現代美術館では何度か展示をしたことがありますが、ここまで広いスペースの中で自分自身のいろんな作品を見せることは初めてなので、そこをまずどういう風にやるのか、すごく楽しみな一方で、ちょっと緊張感もあったりとかして、すごくワクワクしています。内容に関しては、ブラジルに行って、自分がそこで得たことをもとに色々と作りたいなと思っています。まだ行っていない段階では何とも言えないですが、これまで作ってきた作品とはちょっと違うような作品、違うというか、挑戦という言い方はちょっと変な感じもしますが。自分がやりたいこと、表現したいことが見えてそうで、まだ掴めていない部分もあるのですが、そこも含めて楽しみですね。
自分がこれまで何を作ってきたとかはあまり意識せずに、自分がこれまで大事にしてきたこととか、それこそ2020年のフィールドワークの続きをまずはブラジルでちゃんとやるということと、そこから生まれてきたものを美術館の中で見せたいという気持ちはあります。
動画撮影:シャ ヒロヤス
録音:横山拳吾
テキスト編集:トーキョーアーツアンドスペース